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準決勝:栗原 伸豪(東京) vs. 中村 肇(神奈川)

準決勝:栗原 伸豪(東京) vs. 中村 肇(神奈川)

By Daisuke Kawasaki

 マジックなんて、ただのゲームだ。

 ただ、生きていくのなら、必要なものではない。

 まだ4年程度しかない筆者のライターキャリアだが、そんな中でもターニングポイントといえる記事がいくつかある。

 それは2005年世界選手権準々決勝であったり、2007年プロツアー横浜 Round 8であったり、2006年日本選手権決勝であったり、そして2005年The Finals決勝であったり、列挙していてはそれだけで紙幅が埋まりきってしまう。

 筆者の歴史など読者の皆様にとってなにも興味のない事だろうから、極端な事を言うならば、すべてのゲームに物語があり、それぞれがまた、筆者にとってもターニングポイントなのだが、後から、あれは本当はすごいターニングポイントとなっていたのだな、と思わされる記事も存在する。

 それが、グランプリ・浜松のRound 9である。

 山本 賢太郎(埼玉)・栗原 伸豪(東京)・高橋 優太(東京)と、渡辺 雄也(神奈川)・石川 錬(神奈川)・中村 肇(神奈川)のチームによる対戦。この対戦が持つ本当の価値を筆者は当時まだ見つけられていなかった。本当に恥ずかしい話である。

 その後、彼らから与えてもらった「価値」の多さに、筆者は感謝してもしたりない。素晴らしいものをたくさん見させてもらった。

sf

 決勝ラウンドのドラフトが終了した後、中村は筆者にこう語った。

中村 「今回こそは、勝ちたいです」

 当時チームメイトであった渡辺は、GP京都を優勝し、ルーキーを獲得し、今や誰もが認める日本のトップのひとりとなった。石川も、日本選手権トップ8を2回、しかも、一回は準優勝と確実にプレイヤーキャリアを固め、評価を高めている。

 そのふたりとともに入賞した、このグランプリ。

 だからこそ、勝ちたい。そう思わされるだけの価値観を、チームメイトともに積み重ねてきたのだから。

Game 1

 ダイスロールで勝利した中村がなやむ。

中村 「どっちかなぁ、どっちにしよう...後手かな」

kakao 栗原が、2ターン目《血の署名/Sign in Blood》、3ターン目《精神腐敗/Mind Rot》とアドバンテージを取る中、中村は《ゴルゴンのフレイル/Gorgon Flail》、そして《マーフォークの物あさり/Merfolk Looter》と展開する。

 さらに栗原は《噛みつきドレイク/Snapping Drake》をキャストするが、ここには中村、《衰弱/Weakness》を。

 だが、《精神腐敗/Mind Rot》でディスカードした《沼の悪霊/Bog Wraith》を《墓場からの復活/Rise from the Grave》によって奪われ、ピンチに。

 だが、中村も、《沼の悪霊/Bog Wraith》はきっちり《暗殺/Assassinate》で対処し、逆に自分は《強迫/Duress》で《氷の牢獄/Ice Cage》を捨てさせ、安全確認の後に《グレイブディガー/Gravedigger》で《沼の悪霊/Bog Wraith》を回収する。

 そんな中、栗原は《骨の壁/Wall of Bone》を2枚並べ、《吠えたけるバンシー/Howling Banshee》をキャスト。この時点でのダメージレースでは栗原が有利だが、《マーフォークの物あさり/Merfolk Looter》によって手札の質が充実している事が予想される以上、中村の巻き返しも十分に考えられる。

 まずは、《ケリノアのコウモリ/Kelinore Bat》をキャスト。そしてこれに《ゴルゴンのフレイル/Gorgon Flail》が装備された事で、栗原の攻勢が止まる。小考の後に、《ケリノアのコウモリ/Kelinore Bat》をキャストした栗原。

 だが、返しのターンに中村は《睡眠/Sleep》!

 このフルアタックによって栗原のライフは1になり、続くターンに挽回できるカードをひけなかった栗原はカードを片付けた。

中村 1-0 栗原

 中村に比べると、「当時のチームで」という意味で言えば、栗原は恵まれていたのかもしれない。

 チームメイトであった、山本・高橋コンビがプロツアー・サンディエゴでプロツアーサンデーを経験するのよりも先に、プロツアー・ジュネーブで日曜日の、あのまぶしくて熱い照明の中でプレイすることができたのだから。

Game 2

 先手栗原が2ターン目に《マーフォークの物あさり/Merfolk Looter》をキャストすると、中村も《物知りフクロウ/Sage Owl》をキャスト。互いに手札の充実を図る。

 続くターンに栗原は《血の署名/Sign in Blood》で2枚ドロー。中村は《物知りフクロウ/Sage Owl》でアタックし、《予言/Divination》で2枚ドローとアドバンテージ的には同じでも、ライフ分有利な展開。

 さらに栗原は《噛みつきドレイク/Snapping Drake》、中村は《沼の悪霊/Bog Wraith》とお互いに3点のクロックを並べあう。

 栗原の5ターン目のアクションは《吠えたけるバンシー/Howling Banshee》。これで返しの中村のアクション次第では一気に優位に立つ事になる栗原だったのだが...中村がキャストしたのは《大気の精霊/Air Elemental》。

 一方的に攻勢が止まるこの最悪の選択肢に、栗原は、中村のターンエンド、そして自身のターンと《マーフォークの物あさり/Merfolk Looter》を起動。

 まずは《暗殺/Assassinate》で《沼の悪霊/Bog Wraith》を除去し、一方的なクロックを解除、そして、《立ちはだかる影/Looming Shade》をキャストする事で、《大気の精霊/Air Elemental》を乗り越える事のできるクロックを用意する。

 中村は、《ガーゴイルの城/Gargoyle Castle》含めた6マナをたてて、ターンを終了。栗原の《立ちはだかる影/Looming Shade》のアタックは中村本体へとスルーされる。ここで栗原は何点パンプアップするかを長考し、結果、6マナのうち、1マナを使用して、2点のダメージを与え、残った5マナで《ゾンビの大巨人/Zombie Goliath》をキャストする。

 ターンエンドに中村はガーゴイルトークンを生み出す。そして自身のターンにアタック。これを《吠えたけるバンシー/Howling Banshee》と《噛みつきドレイク/Snapping Drake》の2体でブロックした栗原。ここで《吠えたけるバンシー/Howling Banshee》にダメー^時を割り振った後、手札が2枚の栗原に、中村は《精神腐敗/Mind Rot》をキャストする。

 この2枚が《本質の散乱/Essence Scatter》と《グレイブディガー/Gravedigger》と大ヒット。

 栗原は、《ゾンビの大巨人/Zombie Goliath》と《立ちはだかる影/Looming Shade》でアタックし、中村は《角海亀/Horned Turtle》で《ゾンビの大巨人/Zombie Goliath》をブロック。栗原は3回パンプアップで4点のダメージを与え、《夜の子/Child of Night》をキャストする。

 マナも手札もあるものの、盤面で大きな差をつけられてしまった中村。

 《ケリノアのコウモリ/Kelinore Bat》をキャストし、完全に防御を固める体制でターンを終了する。長引けば枚数で有利な分、中村に利はあるのだ。

 《マーフォークの物あさり/Merfolk Looter》で質の優位は確保している栗原は、短期決戦をしかけるべく長考する。

 結果、《立ちはだかる影/Looming Shade》《ゾンビの大巨人/Zombie Goliath》《噛みつきドレイク/Snapping Drake》《夜の子/Child of Night》のすべてでアタックする。この時点で、中村のライフが8、栗原のライフが11と栗原が有利。

 《夜の子/Child of Night》は《物知りフクロウ/Sage Owl》でブロックすることは決まっているものの、残りのブロックで小考する中村。

 結局、《噛みつきドレイク/Snapping Drake》を《大気の精霊/Air Elemental》でブロックし、《立ちはだかる影/Looming Shade》は《ケリノアのコウモリ/Kelinore Bat》でブロック。栗原は2マナはらって《立ちはだかる影/Looming Shade》を3/3にする。

 返しのターンで中村は栗原の墓地にある《グレイブディガー/Gravedigger》を《墓場からの復活/Rise from the Grave》。《物知りフクロウ/Sage Owl》を回収して、ライブラリーのトップを確認する。

栗原 「ライフ、4?」

 栗原は、《マーフォークの物あさり/Merfolk Looter》を含む3体のクリーチャーでアタック。《マーフォークの物あさり/Merfolk Looter》がスルーされて、中村のライフは3。

 栗原がキャストしたのは、《吠えたけるバンシー/Howling Banshee》。

中村 「2枚目?」

中村 1-1 栗原

 栗原の場合、もともと、小室 修(東京)に代表されるいわゆる「第2世代」との交流は深かったわけだし、どちらかと言えば第2世代とカテゴライズされていてもおかしくは無かったのだが、ブレイクした時期等々もあり、「第3世代」とカテゴライズされる事が多かった。

 同じく「第3世代」であった、渡辺 雄也が、高橋 優太が大々的にブレイクし、もはや関東世代論自体が時代遅れなものとなり、そのカテゴライズで語られることはほぼ無くなったといっていい。

 そして、そのカテゴライズがなくなった時、たとえば、渡辺が力強さで、高橋がストイシズムで語られる中、栗原はどのような言葉で語られるのだろうか、彼はどんな価値を背景にもつのだろうか。

 筆者はその言葉をまだもっていない。

 あえて、栗原を語る言葉を見つけるならば、それは「無難」であったり「堅実」であったり、そういう言葉だっただろう。栗原の気分を害することを承知でいうならば、「あと一歩」という言葉がもしかしたらもっともピッタリの言葉なのかもしれない。いや、かもしれなかった、か。

 先週、栗原はグランプリ・バンコクを勝利し、「あと一歩」という言葉がふさわしくなくなってしまったのだから。

 そして、このグランプリで、グランプリ2連覇を目前としている。

Game 3

kuri中村 「先行で」

栗原 「あれ、どうしたの?一本目は...」

中村 「キャラを勘違いしてました」

 ということで、キャラを取り戻して先手の中村。

 お互いマリガン無しで、中村が3ターン目に《吸血鬼の貴族/Vampire Aristocrat》をキャストするのに対して、栗原は《ケリノアのコウモリ/Kelinore Bat》をキャスト。

 中村も負けじと《ケリノアのコウモリ/Kelinore Bat》をキャストするのだが、栗原は《吠えたけるバンシー/Howling Banshee》を。中村の《衰弱/Weakness》が栗原の《ケリノアのコウモリ/Kelinore Bat》を除去する。

 初手は土地ばかりだった栗原が、この頃には不思議と充実した手札で戦っており、5ターン目には5マナを使って《ゾンビの大巨人/Zombie Goliath》をキャスト。対して中村も《暗殺/Assassinate》で《吠えたけるバンシー/Howling Banshee》を対処し、《ケリノアのコウモリ/Kelinore Bat》でアタックする。

 《ゾンビの大巨人/Zombie Goliath》のアタックを通してライフ8となった中村。《ケリノアのコウモリ/Kelinore Bat》は《暗殺/Assassinate》で除去し返されたので、追加のクリーチャーとして《出征路のグール/Warpath Ghoul》をキャストする。一方の栗原も《夜の子/Child of Night》をキャスト。

 この時点で、盤面は均衡が取れているように見えるが、決定的な差があった。それはマナの枚数だ。さすが初手に土地が多かっただけあって栗原は順調に土地が並んでいるのに対し、中村は4枚で止まってしまっているのだ。

 栗原の《夜の子/Child of Night》と中村の《吸血鬼の貴族/Vampire Aristocrat》が相打つが、やはり盤面は栗原に有利のままである。この優位のウチに勝利すべく、栗原は全力で攻撃を仕掛ける。

 栗原は、《墓場からの復活/Rise from the Grave》で中村の《グレイブディガー/Gravedigger》を、そうGame 2でやられたように、やり返した。

 ここで回収されたのは《吠えたけるバンシー/Howling Banshee》。

 この時点でライフが4だった中村は、ドローをすると手を差し出した。

中村 1-2 栗原

 栗原の、そして中村のチームメイトの対戦の価値を当時の筆者は見つけられていなかったし、当時は彼らにとっても、今とは違う価値を持って対戦していたものだったのではないかと推測できる。

 その価値が変化していったのは、彼らの日々の積み重ね、マジックをし続けていく事が価値を生み出していったからだ。

 積み重ねる事は壁を破って新しい価値となる。

 マジックはただのゲームであり、ただ生きていくのなら必要なものではない。だが、人はただ生きているだけではないのだ。生きる事を積み重ねる事で価値を生み出し、その価値の為に生きるのだ。

 そして、マジックは、その価値となりうるに十分なゲームである。

 彼らが生きて、積み重ねてきた価値が、そのことを証明してくれている。

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