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Feature: 日本勢は、なぜ勝てなかったのか。

Feature: 日本勢は、なぜ勝てなかったのか。

By Daisuke Kawasaki

 決勝ラウンドがビデオ中継され、マッチとマッチの合間、Brian David-MarshallとRich Hagonの会話の間に、こんなシーンがあった。

「今回のトップ8に日本人はいないけど、日本人の上位順位をみてみよう」

 そこでスクリーンに映し出されたリストのトップは、渡辺 雄也(神奈川)。

 その順位は28位。

 トップ8はおろか、トップ16にも日本人がいないプロツアーはいつ以来だろうか。小室 修(東京)が22位だったプロツアー・クアラルンプールが、2008年の2月なので、ちょうど2年半ぶりということになる。

 2005年に、森 勝洋(大阪)が世界王者になり、津村 健志(大阪)が日本人として初めてPlayer of the Yearとなってから、ちょうど5年がたとうとしている。

 その間、日本人のプロツアーチャンピオンは、チーム戦を含め大澤 拓也(プロツアー・プラハチャンピオン)、齋藤 友晴・鍛治 友浩・八十岡 翔太(プロツアー・チャールストンチャンピオン)、三原 槙仁(千葉)そして三田村 和弥(千葉)と6名増え、さらに年間最優秀選手であるPoYも八十岡 翔太(2006年)・齋藤 友晴(2007年)・中村 修平(2008年)・渡辺 雄也(2009年)と5年連続で受賞している。

 日本は強豪国だ、と言われるゆえんである。

 そして、このアムステルダムで、ついに日本人ふたりめの殿堂プレイヤーに齋藤 友晴(東京)が選出されたことが発表された。

 そんな日本にとって、今回の大敗は、ひとつの事件と言ってもいいし、また、多くの日本人プロもそう考えている。

 ここでは、プロたちにインタビューしたものを再構成し、プロツアー・アムステルダムでの敗因を探ってみたいと思う。


大会形式の変化


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大塚 「単純に参加者数が増えたから、ラインが厳しくなったし、長丁場になった。だから実力の差もでたし、トップ8にも残りにくくなったんじゃないですかね。アメリカ人は確実に力をつけてきてますよ」

 プロツアー・サンファンで、日本人として唯一トップ8に入賞した大塚 高太郎(神奈川)はこう分析する。

 大会形式の変化を理由のひとつにあげるプレイヤーは少なくない。

津村 「僕もそうですが、混合フォーマットを苦手にしてる日本人は多いと思います。リミテッドは、勝てていても構築で負けていますし」

 プロツアーへ久々の参加となった津村はこう語る。また、大塚と同じく日本王者経験者(日本選手権は混合フォーマットで行われている)の北山 雅也(神奈川)も同じ意見をもっているようだ。

北山 「今回の大会では混合フォーマットの難しさを感じましたね。実際、日本人が負け始めたのって混合フォーマットになってからじゃないですか。両方同じくらい練習出来ればいいんですけど、そうはいかないですし。今回はリミテッドに時間をかけすぎました」

 賛否両論ある混合フォーマットではあるが、日本人プロの間では比較的人気は無いように見受けられる。ふたつのフォーマットを練習する時間はとりにくいから、というのがその理由だ。

 だが、練習する時間に関しては、他国と大きく差があるわけではないのだろうか?大会形式の問題は本質的ではなく、そして、それほど大きな問題であるようには見えない。

 むしろ、彼らが付け加えるように言った言葉にこそ本質があるのではないか。

大塚:アメリカ人は力をつけているから実力差が出やすくなった。

津村:構築戦での弱さ。

北山:練習時間が足りない。


構築戦での大敗 その1:練習不足


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 プロツアー・サンディエゴで唯一の日本人トップ8入賞となった井川 良彦(東京)はこう語る。

井川 「今回は、完全にデッキ負けだったと思います」

Brad Nelson
Pro Tour-Amsterdam, Top 8 (Extended)
3 《森》
4 《霧深い雨林》
4 《つぶやき林》
3 《反射池》
1 《沼》
3 《樹上の村》
1 《黄昏のぬかるみ》
4 《新緑の地下墓地》

-土地(23)-


4 《包囲の搭、ドラン》
3 《聖遺の騎士》
4 《壌土のライオン》
4 《朽ちゆくヒル》
4 《タルモゴイフ》
4 《ツリーフォークの先触れ》

-クリーチャー(23)-
4 《強迫》
1 《遍歴の騎士、エルズペス》
3 《大渦の脈動》
1 《名も無き転置》
1 《殺戮の契約》
4 《思考囲い》

-呪文(14)-
1 《ボジューカの沼》
1 《外身の交換》
1 《遍歴の騎士、エルズペス》
2 《蔓延》
2 《台所の嫌がらせ屋》
3 《虚空の力線》
2 《目覚ましヒバリ》
2 《法の定め》
1 《殺戮の契約》

-サイドボード(15)-

 プロツアー・アムステルダムを制したのは、Gabriel Nassif(フランス)がデザインし、Paul Rietzl(アメリカ)が使用した『殿堂白単』だった。

 だが、多くの日本人プロを驚かせたデックは、むしろ準優勝のBrad Nelsonが使用していたドランだった。

 ドラン自体は、今回も何人かの日本人プレイヤーが使っているため、全く未知のアーキタイプだったというわけではない。だが、その中に入っている1枚のカードが、デックの質を決定的に変えている。

井川 「デッキの差を一番感じたのはドランですね。なんで《壌土のライオン/Loam Lion》にたどり着けなかったのか。《貴族の教主/Noble Hierarch》はいらなかった」

 隣にいた中村 肇(神奈川)もこう続ける。

中村(肇) 「実際、友晴さんとナベが昨日、ずっとその話してましたからね」

齋藤 「なんで《壌土のライオン/Loam Lion》気がつかなかったんだ!あれこそ、僕が出るべきデッキでしたよね、そう思いませんか。だって、現代のZooですよ。今回のデッキは決して悪くないし、白ウィニーはムラがあるので決してベストの選択だったとは思いませんけど、Nelsonのドランは、ベストの選択だったかもしれません」

渡辺 「なぜ、《壌土のライオン/Loam Lion》に気がつけなかったのか。《朽ちゆくヒル/Putrid Leech》は気がついていましたけど、《壌土のライオン/Loam Lion》にはたどり着いていなかった。完全にデッキ負けです」

 レベル8のうちふたりが口をそろえて賞賛する。

 少なくとも、日本と海外とのデッキ差が如実に出たのはこのドランの《壌土のライオン/Loam Lion》にあったようだ。

北山 「ドランは練習で勝っていたからだまされた。使ってみてわかったけど、やはり《貴族の教主/Noble Hierarch》が弱い。《罰する火/Punishing Fire》に《貴族の教主/Noble Hierarch》が焼かれるんじゃ、いったい何のためにドランを選んだのかわからない。ここが日本と世界の差だった」

井川 「調整不足でした。もっと調整をするべきだった」

 調整不足、という点については今回Channel Fireballとは違った形で独創的なドランを作り上げてきた八十岡 翔太(東京)も同じ意見だ。

八十岡 「練習不足でしょ、みんな」

 エクステンデッドで9勝1敗という日本人では最高の成果を出した八十岡は、さすがにこのフォーマットのデッキ差について、厳しい意見を持っている。

 自身も基本的にはひとりでの練習だったとはいえ、結果を残している以上、八十岡のみは海外と自分とのデッキ差を感じているとは思えない。だが、ほかの日本勢の話になれば、やはり原因は練習不足だったという。

八十岡 「デッキが練り込み切れてないよね。構築の練習の時も基本的にはコピーデッキを持ってきているだけの人が多くて、そこから先にいかない。今回の俺のデッキの元々の構想である『1ターン目《思考囲い/Thoughtseize》、2ターン目《タルモゴイフ/Tarmogoyf》という動きは強い』っていうアイディアは伝えていたのに、『それならドランでしょ』と、そこで考えが止まって、(みんなは)次に進んでいなかった」

 プロツアー・ホノルルで日本人として久しぶりのプロツアーチャンピオンとなった三田村 和弥(千葉)も、「八十岡はみんなに情報出してくれなすぎだけど」と八十岡の姿勢は肯定しないもの、話している意見としては同じだった。

三田村 「デッキの差が大きい。リミテッドはMagic Onlineを使えば一人で調整できるけど、構築はオンライン上でシークレットテックを公開してしまうことになるので、なかなかそうはいかない。だけど、練習をするときにはみんな同じデッキしか持ってこないから、結局練習がすすまない。それではデッキが練り込めない」

 デックの差については、ほとんどのプロプレイヤーが原因のひとつとして挙げている。今回、海外勢のデックと比べて、日本のデックの練り込みが浅かったと。

津村 「今回、久々に参加するまで、僕はカバレージマニアなのでカバレージをずっと読みまくってました。その感想として、今の日本人はリミテッドが強くて、構築が弱い。ドラフトで勝っているのに、これはもったいないと思っていました。僕が、その感想を実行に移せていたかは別ですが」

 そして、その理由として、八十岡や三田村は「練習に持ってくるデッキのレベル自体が(コピーデッキ中心となっているため)低いせいだ」と主張するが、多くのプロたちは純粋に練習時間の少なさを感じていたようだ。

 ドランを使用していた中島 主税(東京)はこういう。

中島 「もったいなかった。ドラフトではみんな勝ててたのだから、構築をもっとやっていれば勝てていた。Deck of the Weekにでているレベルのデッキ(殿堂白単に近いタイプのデックは大会前にネットに多少登場していた)は負け組にしなければいけない(中島は直前にサイドボードから抜いた《蔓延/Infest》は残しておくべきだったと、殿堂白単に敗北したあとに語っていた)。もっと調整に時間をとるべきだった」

 齋藤も、完全には同意しないものの、時間の足りなさはみとめる。

齋藤 「今回は、グランプリ・コロンバスに行くためにレガシーを調整していて、僕がエクステンデッドの練習に参加するのが遅くなったのはあると思います。少なくとも自分のデッキのチョイスに関しては、あります」

 一方で、これだけのデッキを作ってきたChannel Fireballという組織への興味もある。

大塚 「Channel Fireballの人たちはどういう風に練習してるんでしょうね。ただ、彼らがマジック以外のことをやっているとは想像しにくいので、きっと、すごくマジックをやっているのだろうと思います」

 Channel Fireballのメンバーは、多くの時間を構築の調整に費やし、それによって、あのドランデッキが出来たのだろうと。

 だが、これに渡辺と齋藤は異論を唱える。

渡辺 「たったの三日で調整されたデッキが、僕たちのデッキよりも上にいったという事をうけとめないといけない」

齋藤 「彼らは、グランプリ・ヨーテボリが終わって、こちらに移動してきてからの三日間、非常によく練習をしていました。ただ、この大会のために彼らが調整に費やした時間はその三日だけだったんです」

 つまり、調整に費やした時間は、根本的な問題ではないということだ。

 齋藤は、こういう。

齋藤 「といっても、時間は有り余っていたようなものです」


構築戦での大敗 その2:ビルダーの不在


渡辺 「今、日本がアメリカに負けているのは、デッキを作る力。プレイングの力ではまだまだ負けていないとは思いますし、かけている時間だけをみるなら、負けていません。ただ、日本にはデッキビルダーが今ほとんどいないので、アイディアがない」

 実際に、Channel Fireballには、多くのデッキのアイディアが存在する。

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齋藤 「今回、彼らが使っていたドランは、先日のコロンバスでトップ8に入賞したやつ(Brad Nelsonでは無いことに留意)が持ち込んできたデッキで、それがいい、ということでみんなで調整したらしいです。持ち込まれた時点で《壌土のライオン/Loam Lion》にまでたどり着いていたらしく、少なくとも、彼らが調整の中であのカードを見つけたというわけではないみたいです。逆に調整時間は足らず、サイドボードは練り込み不足だったと言っていましたね」

 プロツアー準優勝を生み出した《壌土のライオン/Loam Lion》というアイディア。それは調整時間の末に生み出されたわけではなく、ひとりのデッキビルダーに持ち込まれたアイディアだったという。

渡辺 「少なくとも関東では、レベル8の3人のうち、僕と三田村さんは本来的には自分でデッキを作るタイプでは無いですし、トモハルくんもデッキを作り出すというよりはベースのデッキがあって、それを調整するチューナータイプです」

 「自分は絶対にデッキがつくれない」と公言している中島も同じようなことを言う。

中島 「自分が使ったデッキも、調整相手用に用意していたデッキも全部弱かった。日本にはもっとデッキビルダーがでてくるべきだ」

津村 「ローリー(藤田 剛史)さん、(石田)格さん、浅原(晃)さん、かっちん(森 勝洋)。このあたりが引退して、日本の構築のレベルは格段に下がった」

 特に、藤田・石田の二人がいなくなったのは大きいと、津村は語る。実際、津村は自分のPoY受賞のインタビューで、石田・森の二人にデッキをシェアされた事は大きかったと語っているし、その後、藤田からは幾度となくデックを提供されている。

 プロツアー・プラハチャンピオンの大澤も同じ意見だ。

大澤 「精神的な支柱という意味でも、格さんとローリーさんがいたころと今は全然違う」

津村 「スタンダードなら、まだ、日本人は勝てるんだと思います。サンディエゴは『まぁ、結局ジャンドだろ』という感じで構築をサボっていた用に見えて、実際にその結果は海外勢とのジャンドのレシピの強さにかかっていたと思います。あれは、練習相手用のデッキを練り込んでいなかったのも大きいですね」

 スタンダードに関してなら、という事に関しては三田村も同意見だ。

三田村 「今の世代のプレイヤーは、ローウィンブロックなんて典型的なんだけど与えられたデッキデザインの種、いわゆるデザイナーデッキをチューンすることを構築の基本にしてきたから、ゼロからデッキを作る力が無い。昔のもっと雑多なカードプールからデッキを作っていた人たちは構築力の基礎から違った。そして、エクステンデッドみたいに雑多なカードプールではその差がもろにでる」

 新たなアイディアを出す能力が、日本の、少なくとも関東の調整チームには足りないという。

渡辺 「とにかく斬新な意見を持ってきてくれるプレイヤーがほしいです。草の根も最近ではアメリカのコピーが多いですしもっといろいろなデッキが出てきてほしいです」

 新しい意見が出てこなければ、デッキで勝つ、ということ自体がそもそも難しいし、練習相手のデッキも十分に練り込めない。

 渡辺は、多くのデッキがあるべきという理由をもうひとつ挙げる。

渡辺 「今回のトモハルくんの作ったこの青赤緑《紅蓮術士の昇天/Pyromancer Ascension》も決して悪いデッキじゃなかったですし、実際、僕は8勝2敗の成績を残せて、デッキ自体にも手応えを感じています。ただ、それは僕がこのデッキを使うのに向いていたから、というのも大きいです」

 自分が使いやすいデッキを作るためにも、多くのデッキのアイディアは必要だという。

齋藤 「今回のデッキの唯一の弱点は、難しいというところ。その上で、全く知らないデッキを当たり続けたのはかなり大変でした。実際、1マッチと、1ゲームはミスで負けてます」

 齋藤が、Channel Fireballのドランを大絶賛する理由のひとつも自分が使いやすいタイプのデッキだからという。

 石田・藤田が最前線を離れてからのデッキビルダーの不在、という問題については、旧古淵系のプレイヤーを中心に多くのプロプレイヤーが感じていることだという。

津村 「逆に僕らがおんぶにだっこすぎたんですよ。頼りすぎてて、その頼っていたものが無くなるとこうなってしまうのか、っていう。あの頃、自分のデッキにこだわって格さんのデッキを基本的に使わないで、デッキを作り続けていたトモハルさんが、今、日本で一番のデッキビルダーになり、世界に注目されている。そういうことなんだと思います」


構築戦の大敗 その3:情報戦


 一方で、日本のデッキの練度が低かった事は認めるが、情報格差も大きかったというプロもいる。

彌永 「青赤昇天の情報は漏れすぎていた」

 日本勢では最初の段階で青赤昇天を構築していた彌永 淳也(東京)は、少し、厳しめにこういう。

彌永 「でも、自分たちが大会に出ないようにして、自衛しようとしても、調整しているのをみたプレイヤーが、結局それで出てしまうので、防ぎようがない。あれは困った」

 実際、前日の時点で、「日本人のほとんどは赤青昇天を選ぶ」とChannel Fireballのメンバーやフランス人プレイヤーたちは言っていた。

 「トップ8、Budde以外、全員墓地対策とりまくってるじゃん。青赤昇天、メタられすぎだよ」

 自身は赤単を使っていた森 勝洋(大阪)。森のデックは、国内ですらほぼ情報が出回っていなかったので、自身は被害を受けなかったものの、青赤昇天に関しては影響が大きかっただろうと語る。

 その裏には、日本語を翻訳して公開している英語サイトの存在があったようだ。

三田村 「LMC(千葉の大会。プロツアー前、エクステンデッドを定期的にやっていた)でデッキを公開してもらうときに、カード名を日本語だけにしてもらってたんだけど、すごいね、海外には日本のサイトの情報を翻訳して伝えてるサイトがあるのね。台湾プレイヤーが日本のサイトを見ていたのは知っていたけど、英語圏全部に筒抜けだったのはびっくりした」

渡辺 「PWC(神奈川の大会)やLMCをはじめとして、日本の大会結果は翻訳されて海外に筒抜けみたいですね。それだけ日本が注目されているという事なんでしょうけど、こういう時にちょっと厳しいですよね。こっちの情報だけむこうに筒抜けなのは」

 こっちの情報だけ、と渡辺は言った。

齋藤 「インターネットでの情報が充実すればするほど、英語の壁の問題が顕著になってきています。英語を読める人間が少ない分、日本は不利」

 ネットからの情報を元にコピーデッキが持ち込まれているにもかかわらず、ネットの情報を英語の壁のせいで十分に確保できないという矛盾。

大澤 「すごい奇妙な話ですよね。一方的に開示するだけ開示して、交換はしていないっていう。むこうの情報をもっと取り入れる努力はするべきなのかもしれない」

三田村 「語学の壁の問題は大きい。英語圏が一番、層が厚くて情報も多いから、最終的に情報自体も英語のサイトに集まるわけです。それを、僕らプロもそうですし、多くの一般プレイヤーも触れようとしないし、触れられない。たとえば、そういう情報を拾ってくるひとが増えれば、その分、日本にも多くの情報が流れてくるようにはなるはずなんです。でも、語学の壁は大きい」

 三田村は、日本語のウェブサイトは大小関わらず数多くチェックしているが、英語のサイトのチェックはどうしても甘くなってしまうと、自戒を含めて語った。だからこそ、日本人がより英語のサイトから情報を招集するべきなのだと。

 中村 修平(大阪)も語学の壁に関しては厳しい意見を持っている。

中村(修) 「決定的に語学力が足りないのが、大きいです。英語のサイトを見れない、というのはもちろん、向こうのプレイヤーとのコミュニケーションも日常会話レベルが限度。ただ毎回、プロツアーが終わるたびに、もっと英語力をという話はでてくるのですけど、変えようということはない、行動力がない受け身なんですよね」

 より積極的に情報を招集しようと考える他国のプロに比べて、語学の壁をいいわけに受け身になっていることが問題で、やろうとすればできるのではないか、というのが中村の意見だ。


リミテッドでの失敗


中島 「構築にもっと時間をかけるべきだった。リミテッドでは勝てていたのだから」

 津村も言っていたように、現在、日本勢にとっての武器はリミテッドだけというのが大方のプロの意見だ。

 しかし、不思議な事に、齋藤へのインタビューではリミテッドについての意見は一切出てこなかった。

 一方、井川・中村 肇へのインタビューでは、興味深い話があった。

中村(肇) 「ドラフトも時間が足りない中、中途半端にテンポ戦略を取り入れたのが失敗ではあった」

 エクステンデッドでは8勝2敗という成績を収めながら、本来得意であるはずのリミテッドで失敗し、トップ16を逃した渡辺はこう語る。

渡辺 「これについては改めて連載記事でも語ることになると思うのですが、グランプリ・ヨーテボリなどの実戦と他国のプレイヤーとの勝負の中で、かなり認識が変わってしまいました。間違いなく、僕たちはアドバンテージによりすぎた考えを持っていました」

 たとえば、アメリカのトップ中のトップであるLSVなどは、《歴戦の歩兵/Infantry Veteran》を使用した白系のテンポ戦略を好んで選択している。

 この選択肢は、日本のプロの中にはなかったものだ。

中村(修) 「いや、日本の、というか、関東のですよね。たぶん、僕も含めて、関東のプロとの違いを強く感じていたプレイヤーは少なくなかったはず」

 実際、GAME JAPAN誌で小室が連載しているリミテッド記事の、初手で何をとるかという企画をみても、意識の違いが明確に出ている。

三田村 「僕と渡辺が公式の記事で書いた、青が最強であり、アドバンテージが環境を支配しているという記事が、偏っていたことは間違いありません。そして、それを信じ切っていた僕らと、僕らの記事を読んで、それを信じてしまったプレイヤーたちは別の可能性を模索しなかった、というのは大きいです。実はリミテッドの戦略でもアメリカには大きく差をつけられていました」

 実際に、彼らが謀るために嘘を書いたわけではない。彼らは、アドバンテージ戦略が最強戦略だと間違いなく信じていたし、現在でも最強色が青であることに疑いは無い。だが、意見が偏りすぎ、アドバンテージ至上主義になってしまったのは問題だったと考える。

渡辺 「今回に関しては、非常に失敗だったと思います。僕や、三田村さん、あとたぶんトモハルくんだって間違えることはあります。だから、少なくともプロプレイヤーたちには僕たちの意見を信じすぎないで、自分の頭で検証してほしいと思うし、そこで間違っていたら指摘してほしい。そうやって、意見を言い合って、出し合える環境にしなければ、練習によって結果をうむことができない。今は意見を言い合える環境ではないです」

 渡辺は、今回のミスも含めて、意見を言い合える環境を作るべきだと思うし、ミスをどんどん指摘してほしい、それによって自分が成長したいと語る。

 だが、これに、中村は冷ややかな意見をする。

中村(修) 「いや、言えるわけないじゃないですか。意見を言え、と言われても、彼らを尊敬・崇拝しているプレイヤーも多いですし、意見を言い合うということは、彼ら自身も最初は自分の意見を曲げないと言うこと。そんな彼らに、意見を言って、言い合って言い負かせる人間が何人いると思ってるんですか?」

 中村の指摘は、より根が深い問題を含んでいる。


コミュニティの消失


 デッキビルダーがいない、という部分で、石田・藤田の引退が大きいという意見を紹介したが、これについて大澤はさらに深い問題を提起している。

大澤 「強力なリーダーシップを発揮する人間も事実上いないから、日本が固まったチームとして機能していない。二人が前線をひいたことの問題としてはこっちの方が大きいかもしれない」

 関東と関西に限らず、関東の中だけでみても連携が無い。それによって、もともと十分な練習を出来ていないにもかかわらず、練習内容の共有も行われないため、ただただ効率が悪くなっている。

 こういった、横の連携不足、コミュニティが細分化されてしまっていることを指摘するプロは少なくない。

八十岡 「原因を一言で言えば、チームワークが悪い。横同士ではテクニックを隠し合ったり、意見を交わせなかったりしているし、上と下の連携はもっと悪い」

 ひとり調整を繰り返し、調整結果を表に出そうとしない八十岡が、横の連携についてこういう意見を言ったことは興味深い。八十岡からすれば、横の連携をとりたいと思うようなチームワークがないという事なのだろう。この辺は、石田、そして浅原が前線をひいた影響と言えるのかもしれない。

 しかし、八十岡のもうひとつの指摘である上下の連携。こちらの問題も大きい。

 トッププロと、中堅グレービー層や、新規参入プロ、そして草の根プレイヤーたち。これらの間での情報共有にも大きな問題があると、いうのだ。

渡辺 「全く新しいデッキ、というものを日本勢が持ち込んだことは久しくない。もう、4~5回くらいないのかもしれない。日本人はシークレットテックを持っていてもシークレットデックを作る能力は皆無に近くなっている。草の根のトーナメントをみても、アメリカのコピーデッキばっかりですし」

 渡辺の言うように、草の根のトーナメントがコピーデッキばかりなのかはわからない。しかし、重要なのは「草の根の覇者」とまで言われていた渡辺が、現在こういう認識を持っているという事なのだ。

中村(修) 「いや、なんだかんだで、結構意欲作はあるんじゃないかと思うんですけどね」

 もしも中村のいう事が本当なのであれば、それら草の根のテクニックが渡辺に届かない状態、情報の断絶が国内でも発生してしまっているということになる。

中島 「とにかく、もっとデックビルダーが出てこないとならないと思う。プロだけでなく、草の根にも。白緑ガジーグレアやゴブバンテージみたいに草の根発のアイディアが調整・昇華されて日本のシークレットテックとして世界を驚かせたことが何回もあった。今は、それがない」

 実際に、デックビルダーがいなくなっているのか、それとも、そういう情報を共有するコミュニティが無くなっているのか。

中村(修) 「古い人間が古い形にこだわっていて、新しいことに挑戦しようとしていないのではないか。そういうモチベーションを持っている人は多いけど、実際に実行に移せているのは日本ではトモハルだけだと思う。行動力が無い」

 大澤が石田・藤田を例に挙げ、中村が指摘するように行動力を持ち、精神的支柱となるリーダーがいないというのは問題視されている。

三田村 「とにかく一般から情報が上がってきにくい。僕は結構ネットの情報を見ているけど、一般の情報にアンテナが高い人間が少ない」

 上下の連携、という意味では、新しくプロツアーに参戦しようというプレイヤーが減っていることを指摘する声も多い。

齋藤 「最近、プロツアー初出場する人って、長くマジックをやっていたって人が多いように思う。なんか、新しい人間がPTQに参加しなくなっている」

 そして、結果として、コミュニティに流入する人間が少なくなっている。

三田村 「調整に関しては、とにかく手が足りない。新しく入ってくるプレイヤーがいない。一方で、社会人になったりでマジックに時間を費やせないプロプレイヤーは増えていく。これじゃ、人がどんどんいなくなりますよね」

渡辺 「自分は結構若い世代なんですけど、僕よりも若い世代っていうのがささぼー(佐々木 優太)くらいしかいないんじゃないですかね。新しい人が入ってこないのは問題だと思います」

 三田村・渡辺もこの件に関しては共通の認識のようだ。

 だが中村は、ある種の排他性があるのではないかと指摘する。

中村(修) 「これは一般論ですが、日本人はやっぱり保守的なんだと思います。たとえば、日本のプロはMagic Onlineで経験を積んだいわゆるMO出身のプレイヤーに対してつめたいと思う。異質なものに対して許容することが出来なくて、コミュニティがより閉鎖的になっていっているのかもしれない」

 そして、中村が言ったように、ここでも齋藤は行動力を発揮している。

齋藤 「僕が晴れる屋(齋藤がオーナーのショップ)をネット通販だけでなくてデュエルスペースを持った店舗を作ろうと思ったのはそれが理由です。マジックを楽しんでプレイし、その上で強くなろうという人が集まれる、昔のDCIトーナメントセンターみたいなところを作りたかったんです。そして、そっからプロになろうという人が増えてくれればいいなと」

 日本人として二人目の殿堂入りプレイヤーとなった齋藤 友晴。

 日本人として最初に殿堂入りした藤田 剛史のように、コミュニティリーダーとして、今、分裂しつつある日本のコミュニティを再建することはできるのか。


今後の日本勢はどうなっていくのか?


 インタビューを続けていくうちに、この問題は、想像以上に根が深い問題だということがわかった。

中島 「格さんとローリーさんが前線をひいたっていうのが問題だって言うなら、そんなの、もう、今更の問題じゃないじゃない」

津村 「デッキビルダーが減ってきたって問題が、すでに2006年のプロツアー・ホノルルででていましたよね。あの時も、日本人でトップ8はいなかった」

三田村 「こんなの、今にはじまった問題じゃないんですよ。デックテクの差なんて2006年のプロツアー・ホノルルの時にすでにあった」

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 日本人の衰退は、すでに2006年頃から始まっており、いつかは顕在化すると思われていた。実際に、取材チームとしてみていた筆者も、そういう空気は感じていた。それが、今回結果として出た、というだけなのだ。

中村(修) 「もともと、勝ち続けられると考えるのがおこがましいんです。っていうか、日本人が強いって誰が決めたんですか。確かにレベルが上がったかもしれないですけど、どちらかというとアメリカの世代交代のタイミングに乗じたってのも大きい。それなのに、日本という国が強いと勘違いして慢心してしまっている人もいる」

 ある種の油断と慢心が、プレイヤーの向上心を奪っている。中村ほどに厳しい言葉を使わなくとも、同じような意見を語るプレイヤーも多かった。

 そういう意味では根本的な意識改善を求められている時期が来たのかもしれない。

 さらにすべてのプロが、コミュニティの喪失と、新規プロが減っていることと、そして日本国内での情報量が減っていることを問題視していた。

 もしも、今回、日本勢の敗退に対して、今後、また復活してほしい、という方がいれば、プロツアーに参加するべきだ!とは言わない。だが、ブログやツイッター(#mtgjp)で、自分の考えや、思いついたテクニックを是非とも公開してほしい。

 日本勢の敗退は、今大会だけの問題ではなく、千葉で開催される世界選手権でも日本勢の活躍はみられないかもしれない。

 だからこそ、この問題を解決するには、日本中のマジックプレイヤーの協力が必要なのだ。

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