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Round 18:八十岡 翔太(神奈川) vs. Florian Pils(ドイツ)

Round 18:八十岡 翔太(神奈川) vs. Florian Pils(ドイツ)

By Daisuke Kawasaki

 2005年にはじめてライターとして参加した世界選手権のRound 18で、筆者は浅原 晃の勝ち抜けのマッチアップでトップ8に入賞する瞬間を取材した。

 そして、2009年の世界選手権のRound 18では、八十岡 翔太の勝ち抜けのマッチアップを取材している。

 このような節目のマッチで筆者がプレイヤーによくする質問がある。

「あなたにとってマジックとはなんですか?」というやつだ。

 この質問をされたプレイヤーは、大抵苦笑し、そのあと、気恥ずかしそうに答えてくれるものだ。

 それは人生であったり、コミュニケーションであったり、最高の趣味であったり、人をハッピーにさせるものであったり、千差万別だ。

 それぞれのプレイヤーはそれぞれのプレイヤーの思想と生き方の元に、マジックと接し、それに打ち込んでいる。だから、マジックの向こうには、その人間の生き様が反映される。そこには物語がある。デュエルをすることと物語を紡ぐことは同じだ。

 そういえば、この質問を、長いつきあいなのに八十岡にしたことが無かったなと、ふと思った。

 「マジックはマジックに決まってるじゃん、バカじゃないの?」

 と答えるだろう事が明らかだからだ。

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 八十岡にとってマジックはマジックでしかなくて、それ以上でもそれ以下でもない。

Game 1

八十岡 「Game 1は取らなくていいですよ。95%勝てないんで」

 互いにマリガンし、先手のPilsが《桜族の長老/Sakura-Tribe Elder》でマナを伸ばすと、八十岡は、2ターン目に《クァーサルの群れ魔道士/Qasali Pridemage》という展開し、ビートダウンを開始する。

 この《クァーサルの群れ魔道士/Qasali Pridemage》に《乱動への突入/Into the Roil》がキャストされると、八十岡は自ら《流刑への道/Path to Exile》をキャストし、負けじとマナベースを伸ばす。

 八十岡は、続いて《桜族の長老/Sakura-Tribe Elder》をキャストし、さらにマナを伸ばそうとするが、これは《卑下/Condescend》でカウンターされてしまう。

 だが、そうしてマナがタップアウトした隙に、八十岡はクロックとなる《台所の嫌がらせ屋/Kitchen Finks》をキャストする。だめ押しにキャストした《仕組まれた爆薬/Engineered Explosives》は《差し戻し/Remand》され、ついにPilsの場に《溶鉄の尖峰、ヴァラクート/Valakut, the Molten Pinnacle》が登場してしまう。ここでPilsのコントロールする《山/Mountain》は4枚。

 とはいえ、《山/Mountain》の枚数など関係なく、《風景の変容/Scapeshift》を引かれればいつでもゲームが終わってしまう。

 八十岡は、Pilsがカードを引くターンをできるだけ少なくするために《タルモゴイフ/Tarmogoyf》をキャストするが、《差し戻し/Remand》をくらい、《タルモゴイフ/Tarmogoyf》を再びキャストすることには成功するものの、Pilsに1枚の手札を与えてしまい、自身はタップアウトしてしまう。

 そこに打ち込まれる、《風景の変容/Scapeshift》。

八十岡 0-1 Pils

Game 2

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 先手八十岡は、《湿地の干潟/Marsh Flats》から《神無き祭殿/Godless Shrine》をフェッチし、さらに《霧深い雨林/Misty Rainforest》から《神聖なる泉/Hallowed Fountain》をフェッチする。

 対するPilsは2ターン目に《とぐろ巻きの巫女/Coiling Oracle》をキャスト、ライブラリートップのギャンブルに成功し、土地を伸ばす。

 一方の八十岡は静かにマナを伸ばし続ける。

 Pilsはで一挙に2マナをジャンプアップするのだが、そのタップアウトの隙に突き刺さる八十岡の《頭蓋の摘出/Cranial Extraction》!

 宣言は当然《風景の変容/Scapeshift》で、これによってコンボの成立はかなり厳しい形となった。だが、この時、手札に《溶鉄の尖峰、ヴァラクート/Valakut, the Molten Pinnacle》を持っていたPils。まだまだ勝利の道筋は数多く残っている。クロックとして、《とぐろ巻きの巫女/Coiling Oracle》に追加して《台所の嫌がらせ屋/Kitchen Finks》を戦場に投入するPils。

 さらに、八十岡の《幽霊街/Ghost Quarter》セットをものともせず、《溶鉄の尖峰、ヴァラクート/Valakut, the Molten Pinnacle》をセットする。

 八十岡は、Pilsのターンエンドに《けちな贈り物/Gifts Ungiven》をキャスト。これは《卑下/Condescend》でカウンターされてしまうが、返しのターンに《タルモゴイフ/Tarmogoyf》を戦場に。

 この《タルモゴイフ/Tarmogoyf》を《乱動への突入/Into the Roil》でもどされ、ライフが8となったところで、2枚目の《けちな贈り物/Gifts Ungiven》のキャストが許可される。

 ここで八十岡が選択した4枚は、《頭蓋の摘出/Cranial Extraction》《タルモゴイフ/Tarmogoyf》《台所の嫌がらせ屋/Kitchen Finks》《永遠の証人/Eternal Witness》の4枚。いずれも八十岡が愛し、活用してきたカードだ。いや、このデッキには八十岡の嫌いなカードなど入っていないのだ。

 ここから、《永遠の証人/Eternal Witness》と《台所の嫌がらせ屋/Kitchen Finks》が墓地に置かれ、《頭蓋の摘出/Cranial Extraction》と《タルモゴイフ/Tarmogoyf》が手札に入る。

 八十岡は《タルモゴイフ/Tarmogoyf》をキャストしてターンを終了する。これで、Pilsの攻撃の手が休まる。そのターンエンド、八十岡は《根絶/Extirpate》をキャストする。対象は墓地の《深遠の覗き見/Peer Through Depths》。

 Pilsの手札には《深遠の覗き見/Peer Through Depths》があり、残りの3枚は《差し戻し/Remand》と2枚の《炎渦竜巻/Firespout》であった。

 続いて、八十岡は《頭蓋の摘出/Cranial Extraction》をキャスト。これは《差し戻し/Remand》されるが、手札にあるもう一枚の《タルモゴイフ/Tarmogoyf》を盤面に追加する。《幽霊街/Ghost Quarter》は立たせたまま。

 埒があかないPilsは、2枚の《炎渦竜巻/Firespout》で自身の《台所の嫌がらせ屋/Kitchen Finks》ごと盤面を一掃する。

 だが、平らになった盤面で八十岡が不利だった事があるだろうか。たしかにここから土地しか引かない八十岡をなんどもみてきたが、今日の八十岡は違っている。

 八十岡は、《幽霊街/Ghost Quarter》を使用し、《溶鉄の尖峰、ヴァラクート/Valakut, the Molten Pinnacle》を破壊すると、《頭蓋の摘出/Cranial Extraction》で《未開の狩り/Hunting Wilds》を指定する。

 そして、最後の《けちな贈り物/Gifts Ungiven》。

 盤面が平らな時の《けちな贈り物/Gifts Ungiven》で持ってくるものは、《空の遺跡、エメリア/Emeria, the Sky Ruin》《嘆きの井戸、未練/Miren, the Moaning Well》、そして《明けの星、陽星/Yosei, the Morning Star》に決まっている。

八十岡 1-1 Pils

Game 3

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 先手のPilsがマリガンするが、八十岡も、小考の後に、マリガンを選択する。

 このデッキは、八十岡の八十岡によるヤソコンなのだから、八十岡らしくマリガンするのも愛嬌だろう。

 土地が3枚に《桜族の長老/Sakura-Tribe Elder》《流刑への道/Path to Exile》、そして《けちな贈り物/Gifts Ungiven》という手札を八十岡は長考の末にキープする。

 Pilsが1ターン目に《思案/Ponder》をキャスト。一方の八十岡はその間に《桜族の長老/Sakura-Tribe Elder》をキャストマナを伸ばそうとするのだが、これは《差し戻し/Remand》されてしまう。

 続くターンに、《桜族の長老/Sakura-Tribe Elder》をキャストしない八十岡なのだが、ここでPilsは《ヴェンディリオン三人衆/Vendilion Clique》をキャストする。

 この時の八十岡の手札は《けちな贈り物/Gifts Ungiven》《審判の日/Day of Judgment》《流刑への道/Path to Exile》、《桜族の長老/Sakura-Tribe Elder》に《台所の嫌がらせ屋/Kitchen Finks》、そして《幽霊街/Ghost Quarter》というもの。

 この手札に「OK」と答え、《ヴェンディリオン三人衆/Vendilion Clique》の能力を使わないことを選択したPils。自身のターンに《ヴェンディリオン三人衆/Vendilion Clique》でアタックし、マナを残してターンを返す。

 八十岡は、まずは、《審判の日/Day of Judgment》。これに対応して《深遠の覗き見/Peer Through Depths》をキャストするPils。《風景の変容/Scapeshift》を手札に入れる。

 八十岡は、土地をセットして、《桜族の長老/Sakura-Tribe Elder》、そして《台所の嫌がらせ屋/Kitchen Finks》とキャスト。これに対応して、Pilsはさらに《深遠の覗き見/Peer Through Depths》をキャストして、今度は《差し戻し/Remand》を手に入れる。

 Pilsの土地の枚数は6。ドローゴーしたPilsのターンエンドに《桜族の長老/Sakura-Tribe Elder》で《島/Island》をサーチした八十岡は、《台所の嫌がらせ屋/Kitchen Finks》でアタックした後に長考する。

 まず《けちな贈り物/Gifts Ungiven》をキャスト。これは《差し戻し/Remand》されるが、続いて《湿地の干潟/Marsh Flats》をセットし、《神無き祭殿/Godless Shrine》をサーチ《思考囲い/Thoughtseize》をキャストする。

 これにはX=3の《卑下/Condescend》が突き刺さる。

 だが、コンボを決めるのに6枚では土地が足りないPilsは、占術の2枚をみて、眉をしかめ、そして、2枚を山札の下へと送り込む。

 《差し戻し/Remand》と《卑下/Condescend》で都合3枚分ライブラリーを掘り進んだPilsは、山札のトップから《桜族の長老/Sakura-Tribe Elder》を引き当てた。

八十岡 1-2 Pils

 Game 3において、終了後にゲームの検討を始める八十岡 翔太。

 果たして、あの状況で勝ち筋は無かったのだろうか。

 盤面を整理して考えてみよう。検討するべき材料は3つだ。

1.Pilsはそこまでの6ターン毎ターン土地をセットしていた。

2.Pilsの手札には、《風景の変容/Scapeshift》と《差し戻し/Remand》があることはわかっている。

3.Pilsの手札は5枚。そのうちの手札に土地があれば、相手は《差し戻し/Remand》のバックアップの元に《風景の変容/Scapeshift》をキャストできることができる。

 ここで、八十岡の手札にあった材料は、《けちな贈り物/Gifts Ungiven》と《思考囲い/Thoughtseize》、黒マナを含まない6枚の土地、さらに手札には黒マナを供給する《湿地の干潟/Marsh Flats》。

 まず、相手の手札に《差し戻し/Remand》があることを知っている上に、ストレートにキャストした《思考囲い/Thoughtseize》を対戦相手は《差し戻し/Remand》しない理由が無い(八十岡は黒マナをひとつしか出せない)ので、見えている材料だけで却下される。

 カウンターをデックに持たない八十岡は、土地(ただし、《桜族の長老/Sakura-Tribe Elder》や《ウッド・エルフ/Wood Elves》、そして《砕土/Harrow》などのすべての土地をサーチするカードでもマナが足りてしまう)を対戦相手にもたれている、もしくは引かれてしまうだけでゲームに負ける。対戦相手のデックに入っているそれらのカードの比率は楽に50%を超えるため、最優先課題として《思考囲い/Thoughtseize》を通したい。

 そのための囮となり得る《けちな贈り物/Gifts Ungiven》を八十岡は手札に持っており、対戦相手が《差し戻し/Remand》を使用するかどうかはわからない(相手が《差し戻し/Remand》を温存した場合は事後の策を検討することになる)が、八十岡のマナがセットランドをしたとしても7マナであり、2回《けちな贈り物/Gifts Ungiven》を打てないことが明確な以上、対戦相手が《差し戻し/Remand》を打つ可能性は高い。

 対戦相手が2枚目のカウンターを持っていた場合、《思考囲い/Thoughtseize》は結局通らず、対戦相手が土地を持っていないことを祈るだけとなる(実際に八十岡が遭遇した祈りはこの状況である)。

 つまり、対戦相手が土地を持っていない可能性と、2枚目のカウンターを持っていない可能性を天秤にかけた決断が必要になっていたということだ。

 ここで留意していただきたいのは、前のターンの終わりに使用した《桜族の長老/Sakura-Tribe Elder》で《沼/Swamp》を持ってきていれば、カウンターを《思考囲い/Thoughtseize》はかいくぐることができていたという意見だが、八十岡のデックには《沼/Swamp》が入っていないのでそれはかなわない。

 もっとも高く対戦相手の行動をケアできる選択肢は、やはり八十岡の選択肢だったのか。対戦相手が2枚目のカウンターを持っていない可能性にかけたのちに、対戦相手が土地を持っていない事を祈ることができる。

 この選択肢の唯一のリスクは、2枚目のカウンターが《差し戻し/Remand》の場合は2枚、《卑下/Condescend》の場合は3枚の山札を多く掘り進めさせてしまう事だ。これは、事実上対戦相手が土地を手に入れてしまうことと等価ではないか。

 そう考えて、対戦相手がもともと土地を持っていない可能性にかけて、ターンを終了する(つまり、なにもしないし、なにもさせない)選択肢は存在した。

 だが、対戦相手が3枚の山札を掘り進むことが土地を手に入れる事と等価だとケアする事と、5枚の手札に土地が無いと判断することの間には大きな矛盾があるのではないだろうか。

 実際に、この点を指摘してか、中村 修平はいう。

中村 「あそこで土地を持っていない可能性にかけてターンを返す選択肢はあり得ないし選べないでしょ。プロだから、じゃなくて、人としてそれは無理」

 だが、現実問題として、土地が無い事を期待してターンを返し、そして対戦相手がターンエンドを宣言したあとに、ほっと胸をなで下ろしながら《けちな贈り物/Gifts Ungiven》をうち、《差し戻し/Remand》を打たせた上で(これが通った場合は2枚目の黒マナにアクセス出来る)《卑下/Condescend》をケアして《思考囲い/Thoughtseize》をキャスト、対戦相手の《風景の変容/Scapeshift》をディスカードさせることが可能だった。

 だが、中村が指摘するようにこの選択肢は論理的な整合性が著しく欠如している。

 そこに座っているのが、「論理の化身」八十岡ならなおさらだ。八十岡が八十岡であるなら選べない選択肢なのだ。

 第18ラウンドのペアリングが発表される前に、齋藤 友晴はこういった。

齋藤 「いっそ、僕とヤソ(八十岡)があたっちゃえばいいですよね。そうすれば少なくともひとりは日本人がトップ8にあがれるんですから」

 今、齋藤・八十岡のふたりが敗北し、トップ8進出を逃した今となっては、齋藤の言った言葉の理もわかる。ふたりとも、という最大値を狙ってすべてを失うよりは、最低限の益を確保するべきなのだ。

 でも、筆者は、ふたりともにトップ8に進出して欲しかったし、ふたりがマッチングされないことを心から祈った。

 その祈りが届いた結果が、これだ。筆者は祈るべきじゃ無かったのだろうか。ロジックではその答えを出すことはできない。

 対戦後、八十岡はこうつぶやいた。

八十岡 「マジックは、ロジックだけじゃないから」

 きっと、それでも八十岡は、「マジックはマジックだから」というだろう。

 その言葉の重さをきちんと背負って。

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