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決勝戦:Andre Coimbra(ポルトガル) vs. David Reitbauer(オーストリア)

決勝戦:Andre Coimbra(ポルトガル) vs. David Reitbauer(オーストリア)

By Daisuke Kawasaki

 世界選手権が始まる前に、スタンダードのメタゲームはジャンド一色で、すべてはジャンドだけの世界だと思われていた。

 そして、それはあながち間違いでは無かったことが、この世界選手権で明らかになった。なにせ、スタンダードで行われた初日に、好成績を残したデックはジャンドが多かったし、このトップ8にも3つのジャンドデックが姿をあらわし、早い段階でのつぶし合いがあったものの、やはり、キチンとこの決勝の席にジャンドを操るDavid Reitbauer(オーストリア)が座っているからだ。

 一方で、成績を残したデックにジャンド以外のデックが思いのほか多かった事もまた、事実である。だが、それらのデックは「ジャンドをメタる」ためのデックであり、ジャンドから相対化された世界に存在するデックである。これらのデックもまた、ジャンド無しには存在しえない。「ジャンド一強」という言葉が正しいかどうかはわからないが、「ジャンド一色」であったことは間違いないだろう。

 そんなデックのうちのひとつである「ナヤデック」を使用するAndre Coimbra(ポルトガル)が決勝の席でジャンドと戦う事により、ジャンドが勝つか、ジャンドメタが勝つか、その一点にこの決勝の焦点は絞られたと言っていい。

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 実際にプレイをする上で、支配的に強いデックが存在する事は決していいことだとは言えないだろう。環境が単調化すれば、同じデックをまわすのにも飽きるし、わざわざ負けるデックを持っていくのにも飽きる。

 だが、それはそれとして、マジックプレイヤーは、マジックを好きならば、この決勝の観戦を、みな楽しんでいるのでは無いだろうか。

 Coimbraの「ライトセイバー」がジャンドを叩ききるか、それとも、帝王ジャンドがかわらぬ強さを見せつけるか。

 これは、ひとつの真剣勝負であり、ふたりの名誉を賭けた戦いであるが、多くのマジックプレイヤーにとっては一流のエンターテイメントなのである。

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Game 1

 先手は、Reitbauer。1ターン目から3ターン目まで続けて《野蛮な地/Savage Lands》をセットした後に、4ターン目に《野生語りのガラク/Garruk Wildspeaker》というスタート。

 この《野生語りのガラク/Garruk Wildspeaker》が生み出したトークンを、Coimbraが《稲妻/Lightning Bolt》で除去し、返しで《血編み髪のエルフ/Bloodbraid Elf》をキャスト。この《血編み髪のエルフ/Bloodbraid Elf》が《長毛のソクター/Woolly Thoctar》を続唱しながら、《野生語りのガラク/Garruk Wildspeaker》にアタックと八面六臂の活躍を見せる。

 Reitbauerも返して《血編み髪のエルフ/Bloodbraid Elf》をキャスト。この《血編み髪のエルフ/Bloodbraid Elf》は《朽ちゆくヒル/Putrid Leech》を続唱し、盤面はいったんにらみ合いになる。ここで、Coimbraは《悪斬の天使/Baneslayer Angel》をキャスト。Reitbauerは《野生語りのガラク/Garruk Wildspeaker》キャストのアンタップから《終止/Terminate》を《悪斬の天使/Baneslayer Angel》に。

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 だが、Reitbauerが《長毛のソクター/Woolly Thoctar》と相打つべくブロックした《朽ちゆくヒル/Putrid Leech》は、パンプアップにあわせて《稲妻/Lightning Bolt》を打ち込まれ、結果盤面にはCoimbraの《長毛のソクター/Woolly Thoctar》だけがのこる。

 そして、Coimbraは《イーオスのレインジャー/Ranger of Eos》をキャスト。《硬鎧の群れ/Scute Mob》と《野生のナカティル/Wild Nacatl》をサーチし、《硬鎧の群れ/Scute Mob》をキャストする。

 Reitbauerは落ち着いて、《血編み髪のエルフ/Bloodbraid Elf》をキャスト。この《血編み髪のエルフ/Bloodbraid Elf》が《荒廃稲妻/Blightning》を続唱し、さらに《野生語りのガラク/Garruk Wildspeaker》の能力でのアンタップから《稲妻/Lightning Bolt》を《硬鎧の群れ/Scute Mob》にキャストする。

 Coimbraは、《イーオスのレインジャー/Ranger of Eos》と《長毛のソクター/Woolly Thoctar》で《野生語りのガラク/Garruk Wildspeaker》を無視して、本体へとアタック。Reitbauerは、《イーオスのレインジャー/Ranger of Eos》を《血編み髪のエルフ/Bloodbraid Elf》でブロックする。

 ここでCoimbraが《イーオスのレインジャー/Ranger of Eos》の2体目をキャストすると、Reitbauerは少々あきれた表情を見せる。この《イーオスのレインジャー/Ranger of Eos》が《野生のナカティル/Wild Nacatl》を2枚サーチし、《巨森、オラン=リーフ/Oran-Rief, the Vastwood》でこの《野生のナカティル/Wild Nacatl》は4/4となる。

 Reitbauerは《野生のナカティル/Wild Nacatl》2体を《大渦の脈動/Maelstrom Pulse》で除去し、《終止/Terminate》を《長毛のソクター/Woolly Thoctar》へとキャスト。クロックをへらし、自身のターンをできるだけ増やす。土地が4枚で止まっているReitbauerはさばきながら動けないため、もどかしい。

 Coimbraのライブラリートップは《血編み髪のエルフ/Bloodbraid Elf》。山札のトップから垂直落下したこのカードをみて、Reitbauerは宙を見上げ、覚悟を決める。だが、この《血編み髪のエルフ/Bloodbraid Elf》の続唱は《流刑への道/Path to Exile》だったため、Reitbauerにチャンスが残った。Coimbraは《血編み髪のエルフ/Bloodbraid Elf》に《巨森、オラン=リーフ/Oran-Rief, the Vastwood》でカウンターを載せて、《野生語りのガラク/Garruk Wildspeaker》へと2体で攻撃する。

 Reitbauerは満を持して《野生の狩りの達人/Master of the Wild Hunt》をキャスト、続くターンの《イーオスのレインジャー/Ranger of Eos》《血編み髪のエルフ/Bloodbraid Elf》の攻撃をスルーしてライフは5。そして、たった今、Coimbraがドローしたカード、《イーオスのレインジャー/Ranger of Eos》をキャストする。《野生のナカティル/Wild Nacatl》《貴族の教主/Noble Hierarch》がサーチされ、仲良く《巨森、オラン=リーフ/Oran-Rief, the Vastwood》で強化。

 だが、まだReitbauerは粘る。《大渦の脈動/Maelstrom Pulse》で2体の《イーオスのレインジャー/Ranger of Eos》を手札をゼロにしながら対処し、《野生の狩りの達人/Master of the Wild Hunt》の生み出す狼トークンで耐えしのぐプランを作る。次のターンにCoimbraが土地を引き、こちらが何か、そう続唱を持った《瀝青破/Bituminous Blast》あたりをトップデックすれば、なんとか盤面を持ち返せそうなプランを。

 Coimbraのライブラリートップから、垂直落下するのは、《悪斬の天使/Baneslayer Angel》。

Coimbra 1-0 Reitbauer

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 決勝戦の様子は、ビデオマッチとして会場の、ちょうどアリーナの裏手あたりにあるホールにて上映されている。

 このホールに集まった人々は、住んでいる国も、話す言葉も、地位も性格も何もかも違う人々だ。Randy BuehlerとBrian David-Marshallのふたりによる解説が行われているが、彼らの早口の英語を、この席の中の全員が聞き取れているとは考えがたい。

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 だが、ホール内の誰もが、ふたりのプレイに、ドローに、トップデックに一喜一憂し、この対戦を心底楽しんでいる。「ジャンドが強いからつまらない」。そんな事は忘れて、今は強大な帝国へ革命軍が戦いを挑むこの物語を楽しんでいる。

 マジックプレイヤーなら、誰でも楽しめるこの物語を。

 それではこのホールにいないプレイヤーは?

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 彼らはこの会場のそこら中で開催されているトーナメントに参加したり、突発的に、友人や、友人の友人や、出会ったばかりの人とドラフトを開催したりして楽しんでいる。

 彼らは彼らで、自分のマジックの物語を、この世界選手権の会場で紡いでいる。

Game 2

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 ダブルマリガンの末に、《巨森、オラン=リーフ/Oran-Rief, the Vastwood》《乾燥台地/Arid Mesa》《稲妻/Lightning Bolt》《天界の粛清/Celestial Purge》《悪斬の天使/Baneslayer Angel》という手札をキープしたCoimbra。

 1ターン目のドローで《平地/Plains》・2ターン目のドローで《血編み髪のエルフ/Bloodbraid Elf》、そして3ターン目に《根縛りの岩山/Rootbound Crag》をドローしたことで、かなり安心して戦えるようになった。

 Reitbauerが3ターン目にキャストした《芽吹くトリナクス/Sprouting Thrinax》をターンエンドに《天界の粛清/Celestial Purge》で除去し、Reitbauerが4ターン目に《巨森、オラン=リーフ/Oran-Rief, the Vastwood》をセットするのみでターンを終了したため、先に《血編み髪のエルフ/Bloodbraid Elf》チャンスにたどり着く。

 ここの続唱でめくれたのは《貴族の教主/Noble Hierarch》だったのだが、Reitbauerが《血編み髪のエルフ/Bloodbraid Elf》対象にキャストした《瀝青破/Bituminous Blast》で《稲妻/Lightning Bolt》がめくれたことで、いったん盤面は平らになる。

 Coimbraは5枚目の土地をセットして《悪斬の天使/Baneslayer Angel》キャスト。さすがに話はうまくいかず、Reitbauerは《野生語りのガラク/Garruk Wildspeaker》キャストして、トークンを生み出し、あまったマナで《終止/Terminate》を《悪斬の天使/Baneslayer Angel》に。

 ここでCoimbraのトップが《血編み髪のエルフ/Bloodbraid Elf》、さらにそのまま《大貂皮鹿/Great Sable Stag》まで続唱され、Coimbraは手札に持っていた《稲妻/Lightning Bolt》でトークンを除去し、《巨森、オラン=リーフ/Oran-Rief, the Vastwood》を使った後に、《野生語りのガラク/Garruk Wildspeaker》へと《血編み髪のエルフ/Bloodbraid Elf》でアタックする。

 この圧倒的な場を、いったん平らにまで持ち直したのは《若き群れのドラゴン/Broodmate Dragon》であった。4/4の《大貂皮鹿/Great Sable Stag》がトークンと相打ち、お互いに除去を引き合ったことで、トップデック合戦となる。

 ここで先にユーティリティスペルを引いたのはCoimbraであった。

 《大貂皮鹿/Great Sable Stag》をドローし、これをキャストする、

 返すターンで、Reitbauerも呪文を引く。このデッキの顔とも言っていい呪文だ。

 《大貂皮鹿/Great Sable Stag》がアタック。Reitbauerは、さらに呪文を引く。

Coimbra 2-0 Reitbauer

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 Coimbraの二連勝に会場は沸き立つ。別にジャンドが、Reitbauerが憎いわけではない。今は、一強ジャンドを打ち崩せるかという期待感と、劇的な試合展開をただただ楽しんでいるのだ。

 私的な話で申し訳ないが、筆者は、マジックを観戦することがプレイするよりも好きだ。プレイをすることが嫌いなわけではないし、マジックは魅力的なゲームなのだから、プレイしたらもちろん夢中になる。

 でも、それと同じくらいに、様々な考えや意見の人間が、それこそ言葉も通じ合わないような人間同士が、マジックという共通言語で、その思想や生き様をぶつけ合う、そんな物語に魅せられて、だから今、こうして試合を記述しているのだ。

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 マジックとのつきあい方や、マジックへの魅力の感じ方は人それぞれだ。高度で深いゲーム性を、魅力的で幻想的な世界観を、愉快でカジュアルな遊び方を、厳格で論理的なルール整備を、多くの人が公平に遊べるトーナメントの運営を、人々の集まるコミュニティの維持を、「マジック」という共通言語で行われる人と人とのコミュニケーションを、そしてその向こう側にある物語を。何をどう楽しもうと、マジックがマジックである限りそれはすべて許容される。

 そして、その、すべてのマジックを愛する人たちは、きっと、世界選手権の会場に来れば楽しめるはずだ。

 少なくとも、今、この会場にいる人たちは、全員「マジック」を楽しんでいる。

Game 3

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 Reitbauerは《野蛮な地/Savage Lands》をセットし、さらに2ターン目に《竜髑髏の山頂/Dragonskull Summit》をセットする。

 そして、3ターン目に《沼/Swamp》をセットして《朽ちゆくヒル/Putrid Leech》をキャストする。

 土地をセットする順番がおかしくないか?

 このことが意味するのは、Reitbauerが2ターン目に土地をもっておらず、そして、3ターン目にセットするべき土地が《沼/Swamp》しか無かったということだ。

 Coimbraは返しのターンに《長毛のソクター/Woolly Thoctar》をキャスト。この《長毛のソクター/Woolly Thoctar》には《大渦の脈動/Maelstrom Pulse》がキャストされるのだが、どうせ除去される前提で出した《長毛のソクター/Woolly Thoctar》なので、そのことは重要ではない。Coimbraにとって重要なのは、Reitbauerのターンがここで終わるのかどうかだ。

 Coimbraは聞く。

Coimbra 「ターンは終わり?」

 Reitbauerは小さく頷く。Coimbraがアンタップして、土地を置く。

 そして、キャストされたのは、《ゴブリンの廃墟飛ばし/Goblin Ruinblaster》。

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 これで、土地が2枚になってしまったReitbauerは、生き延びるターンを増やす為にも、《朽ちゆくヒル/Putrid Leech》をアタックできなくなってしまう。

 《朽ちゆくヒル/Putrid Leech》は《天界の粛清/Celestial Purge》され、2マナで使用できる除去はすべて打ち切って打ち切ってしまった。

 でも、まだ、3枚目の土地を引かない。

 目の前には《長毛のソクター/Woolly Thoctar》と《大貂皮鹿/Great Sable Stag》がいるのに。

David "Very fast finals"

Coimbra 3-0 Reitbauer

 試合が終わって、しばらくすると、彌永 淳也が筆者に話しかけてきた。

彌永 「《大貂皮鹿/Great Sable Stag》で《瀝青破/Bituminous Blast》が2枚腐ったり、《ゴブリンの廃墟飛ばし/Goblin Ruinblaster》で土地が事故って負けたり、まるでナヤがジャンドに勝てるっていうプロモーションムービーみたいな試合だったね」

 ちょっとすると、今度は栗原 伸豪に話しかけられた。

栗原 「さっき、上でドラフトやってるLSVたちに、Coimbraが優勝したって伝えに行ったら『なんだよCoinmbraかよー』って頭抱えてましたよ」

 そうしている間にも、三田村 和弥はMarijn Lybaertとじゃれ合っているだろうし、齋藤 友晴はせわしなく様々なプレイヤーとトレードをしているだろうし、高橋 優太は自分がスタンディングの一番上にいる姿をイメージトレーニングするためにスタンディング掲示板の前にひとりたっているだろうし、渡辺 雄也は土地事故をMartin Juzaに煽られているだろう。

 プロツアーの会場は、世界最高峰のトーナメントが行われるだけの場所ではない。そこは、世界最高のトーナメントというエンターテイメントを楽しめる劇場であり、そして世界中のマジックを愛する人たちが集うサロンなのだ。参加資格はただひとつ、マジックを好きだ、ということだけ。

 来年の世界選手権は日本で開催される。できるだけ多くの人と、マジックを「観戦する」事の楽しさを分かち合いたいと思ってこの仕事をしている筆者としては、多くの日本人マジックファンに、この最高のエンターテイメントを生で楽しむ機会があることを、心から嬉しく思う。チャンスがあれば、是非とも会場に足を運んでいただきたい。この、マジックという共通言語があれば、多くの人と楽しみを共有できるという経験を、本当に、できるだけ多くの人に経験してもらいたい。

 なんていう記事の内容を頭の中で考えていると、すれ違ったイタリア人プレイヤーの会話の中に、「シューヘイ」という単語があるのが耳に入った。彼らにとって、中村 修平はスタープレイヤーで、そんなスタープレイヤーに生で出会った感動を語り合っているのだろうか。

 そして、今日、この場所で、また新しい王者がうまれた。きっと、多くの人がこの感動を語り合い、分かち合うだろう。

 おめでとう、Andre Coimbra!

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 表彰式のほんの少し前、表彰を待つCoimbraに近づき、握手をもとめ、たどたどしい英語でこう伝えた。「congratulation」ではなく「コングラチュレイション」と。

 すると、Coimbraは、手を合わせ、カタカナでこう答えてくれた。

Coimbra 「ドモアリガトゴザイマス」

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